①ナットの交換とテンションについて
ギターのナットやサドルには象牙、牛骨、タスク、ブラス、カーボン、プラスチックなどが使われていますが、音色重視・耐久性・高価格で考えるなら象牙ですね。超高級ギターに使われています。でも、加工のし易さや費用対効果を考えると牛骨で充分だと思います。
これは、楽器店でも売っているSCUD(スカッド)の漂白牛骨ナットです。
すでにマーチンにも合うように底部には15度の傾斜をつけてあり、一般のギターに使う場合は直角に削る必要があります。直角のナットも楽器店で販売されているかも知れませんね。形成はほとんどのギターに適合するようにやや大きめにカットされています。
ところで、ナットやサドルは消耗品と言われていますが、どんな状態になったら交換する必要があるのでしょうか。
それは、ネックもほぼ真っ直ぐか、やや順ぞりの状態で、弦高もそれほど高すぎず、低すぎず、フレットも浮いても減ってもいないのに、なぜか開放弦がビビる。これが典型的なナットの交換時期だと思います。
試しに、ビビる弦の3フレットを押さえて、1フレットの弦との隙間を見て下さい。弦とフレットがくっついてしまっていると思います。
正常な状態では微妙に隙間があり、弦を叩くとコッとフレットに接触する音がします。
1フレットの弦高は0.5mm~0.6mm程度が標準です。因みに、工場で量産された一般的なギターの弦高は1.0mm位だと思います。ローコードが押さえにくい場合はチャックしてみて下さい。
では、早速古いナットを外します。(オールドマーチンのナットは底辺に15度の角度をつけてあるタイプのギターがありますので、外す方法が異なりますので、また、機会がありましたら説明します。)
ここで、注意が必要です。ヘッドや指板に余計な力が加わって、塗装や木部を損傷するこはがありますから、ナット周りにナイフで切り込みを入れておきます。
指板側から木片を当てて木槌で叩いて外します。ナットが接着剤でしっかり固定されている場合もありますので、力任せに叩くのは止めましょう。
外した後、古い接着剤を綺麗に取り除き、平面をキープします。場合によっては平ヤスリで軽く削る場合もあります。歯ブラシなどで綺麗にします。
次に、ナットの作成です。今回は従前のナットの形状を参考に削ります。
初めは荒い平ヤスリで、次第に細かな平ヤスリでおおよそのサイズ合わせをします。ナットの高さは1mm程度高めに、幅と厚さはジャストサイズにします。
ナットの底辺の平面を保つことが一番大切で、基本中の基本です。
光にかざして見るとよくわかります。
0.1mmが成否を分けますので、最後は細かなサンドペーパーなどで微調整し、研磨剤などで綺麗に磨きます。
次に、ナットに弦溝をつけます。今回は外したナットと同じ位置で弦溝をつけます。
弦の太さを考慮したナット定規で弦間を決める場合もあります。
鉛筆で1~6弦の位置を記して、目立てヤスリで浅く削っておきます。
いよいよ、ナットの取り付けです。ナットのコーナーをサンドペーパーでひと擦りして接着剤の逃げ道を作っておくことをお薦めします。
これなら、接着剤なしでも固定されそうですが、念のためタイボンドを水で薄めて少しだけ塗ります。多すぎるとはみ出しますし、外すときに苦労しますので注意して下さい。
ジャストフィットに心がけましょう。
さあ、仕上げの段階です。
ナットに弦溝を掘ります。おっと、その前に大切なギターに傷をつけないように、ヘッドと指坂のマスキングをしましょう。
使うヤスリはこれです。
ダイヤモンドのライン丸ヤスリ(1.5mm、1.2mm、1.0mm、0.8mm)で6弦から3弦を、薄い綱板ヤスリで1弦と2弦の弦溝を掘ります。この時、弦は張った状態で1本づつ緩めながら行います。
ヤスリを当てる角度はヘッドの角度に合わせて下さい。指板と平行はダメですよ。溝の幅は広すぎず、狭すぎず、そして、支点は指板側の角・・・・これが基本です。
弦の高さを見ながらナットを削りますが、その高さを決める方法は、先ず、1フレットを押さえた時の2フレットの弦の隙間と開放弦の時の1フレットの弦の隙間を見比べて、同じ位になるようにナットを削ります。
6弦から3弦までは丸ヤスリで、1,2弦は綱板ヤスリで少しづつ行って下さい。削りカスが少し出たら弦を張って高さをチェックして下さい。子の作業を繰り返します。
必要なものは集中力とギターへの愛情かな。
削り過ぎは元には戻りませんので、くれぐれも慎重かつ丁寧に。
ナットの溝の深さは、弦がはまり込んでしまっては弦の振動を阻害してしまいます。本来は弦がピッキングの時に外れなければ良い訳ですから、弦がナットから半分程度出るか、プレーン弦の場合は弦と同程度の深さで充分だと思います。
いよいよ、仕上げです。
私はナットの磨き仕上げに3Mのスポンジ研磨剤を使っています。ネイルバッファーなどの爪磨きを使うともっと艶がでます。
さて、これで後は音の調整ですね。
ナットと弦の接触面の違いによって音も変化しますので、ナットの形状とテンションの関係を説明します。
ナットの形状とテンションの関係
いわゆるナットの切り込み角度の話です。
①全面接触タイプ
ナットの溝の切り込み角度が緩い場合です。弦がナットの溝の全面に接触しています。
このタイプのギターはテンションが高くなります。
音は箱鳴り感が強調されるため、弦そのものの音色が甘く感じられます。
弦高が低く設定されたビンテージギターや手工品はこのタイプが多いようです。
②半面接触タイプ
①の全面接触タイプのナットのポスト側の溝を削るとこの形になります。
切り込みの角度は①と同じですが、接触面が少なくなります。
このタイプのギターのテンションは下がります。弦高は変わらないのにテンションが下がりますから、弾きやすいと感じます。音は箱鳴り感が薄れるため、高音が綺麗に感じます。
テンションが高すぎて、音も硬いと感じたら、この形状もお薦めです。
通常、弦高調整の次にはこの調整をすることが多いです。
③点接触タイプ
②の半面接触タイプのナットのポスト側の溝を更に削るとこの形になります。点とはいうものの、弦との接触面は1mm程度です。
このタイプのギターはほとんど見かけませんが、テンションは高くなります。
音は箱鳴り感が強く、かつ弦の音もしっかりと聞こえ、良い音のギターだねと言われそうです。ただ、ナットの消耗を考えるとお薦めできません。
私のギターはこんな感じです。
サドルは点接触のほうがテンションは上がり、箱鳴り感も上がります。また、弦高が上がれば、テンションも上がり、箱鳴り感も上がります。
ナットとサドル形状、弦高の違い、弦の巻き数でテンションや箱鳴り感、音の輪郭が変わります。これらのバランスを上手くとることが大切です。
先ずは、弾きやすいことを考えると、弦高は下げたい。でも、ストロークプレイが多いから、あまりテンションは下げたくない。でも、アルペジオでも綺麗な音を出したい。ソロギターもやりたい。
残念ながら、全ての要求を満たすオールマイティーなギターはありません。